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新訳 小さなアパート



監 訳
伊藤 美樹

翻 訳
石原貴久江 佐藤恵美
柏倉美穂 久常慶子
児山夕子 松本英子
近藤佐江子 吉崎泰世

監訳者のことば
 この作品は、3-Days Novel Contest の優勝作品である。
わずか三日間で書かれたとは思えない構成力で、ストーリーのおもしろさと意表をつく展開は最後まで読者をひきつけて放さない。
物語は、いきなりキッチンの床に横たわる死体の描写から始まる。
なぜそこに死体がころがることになったのかは謎のまま、話が進んでいく。
 終わってみればたった二日間の物語なのだが、その二日間で主人公の人生は大きく変わっていく。
そして偶然にも、同じアパートに住む隣人たちの人生も。主人公は小さなアパートの一階に住む独身で肥満の中年男フランクリン。仕事をしている様子もなく、向かいの家を双眼鏡でのぞいては、妄想をたくましくするのが日課という変人だ。
キッチンの死体を今日中に始末しなければと頭を悩ませながらも、のん気に昔のことを思い出したり、向かいの家をのぞいたりしている。
 そんなどうしようもないオジサンなのだが、なぜか憎めず、あまりの無様さ、滑稽さに哀愁さえ感じてしまう。
 一方、フランクリンと同じアパートの二階に住む若者トミー。
もう一人の主人公とも言えるトミーは、マリファナを楽しむために生きている。
仕事をするのも、マリファナを買い、家賃を払うためという典型的な刹那主義の若者だ。
 この二人の運命が二日間で明暗を分け、読む側は爽快感と人生のはかなさの両方を感じることになる。
そしてストーリー展開に終始関わってくるカリスマ精神科医とその著書。
また、失火を装って死体を始末したことから、ベテラン火災調査官も登場する。話の展開ばかりでなく、アクの強い登場人物たちの描写もおもしろい。
また、一見どうしようもない人間のようでも、自分の人生に希望をもち、未来を切り開こうとする意志があることに、読者としては救いを感じる。
 今回のワークショップには八人の方が参加された。全員女性であり、恐らく現実の世界では一生出会うことはないだろうと思われる変人やマリファナ中毒の若者に、どんなふうにしゃべらせるかという点で、皆さん頭を悩ませたことと思う。
英語には“T”しかない一人称を「おれ」にするか「ぼく」にするかだけでも、読者の受ける印象は大きく違ってくるからだ。
しかし、訳文作りが進んでいくうちに、調子も出て、大胆な台詞を楽しんで訳されていることが伝わってくるような訳文が増えていった。
 全体としては、原文の簡潔でテンポのいい語り口が、日本語でも生きるように留意した。
訳した私たち同様、読者にも楽しんでもらえる作品に仕上がったと思う。

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